関係者各位御中

 今回、英国の科学雑誌Natureに掲載された我々の実験結果の要約を述べます。
 我々は、1992年からオーストラリアで高エネルギーガンマ線天体観測を行っています。
グループ名をカンガルー実験と称し、宇宙線研究所(東大)を中心として京大、山梨学院
大、茨城大、宇宙研、山形大、東工大、甲南大、信州大、名大STE研、天文台、茨城医療
大、東海大、大阪市大、アデレード大およびオーストラリア国立大(オーストラリア)に
よる国際共同実験であり、文部科学省の旧中核的研究拠点形成プログラム(現特別推進研
究)を主とした科学研究費で運営しています。南オーストラリア州ウーメラに設置した口
径10mの反射集光器を用いて、宇宙からの一兆電子ボルトという高エネルギーガンマ線を
検出し、宇宙での高エネルギー現象を解明することを目的としています。
 今回の結果は、宇宙線の起源天体はどこかという難問の解明に大きな一歩を踏みだした
ものです。宇宙線は、古くから知られている宇宙の高エネルギー現象の一つであり,宇宙
から地球に降り注ぐ十億電子ボルト以上の高エネルギー粒子です。1912年に発見されて以
来,現在まで天文学、物理学の分野ばかりでなく、生命の起源にも関係し、科学全般に興
味を持たれている事象です。しかし長い歴史を持ち、多くの関心を集めながら、宇宙線が
宇宙のどの天体でどのように高エネルギー粒子に加速されるかは、未だにほとんどわから
ず、天文学および物理学の大きな問題となっています。
 現在は、巨大なエネルギーを開放する超新星爆発の後に生ずる超新星残骸(SNR)で宇
宙線が加速されているという説が最有力とされており,これまでに二次的な根拠がある程
度示されています。しかし、宇宙線の起源天体の解明に不可欠な陽子成分が、SNRで加速
されているという確かな証拠は掴めていない状態が続いていました。(宇宙線の成分のほと
んどは陽子成分であり、電子成分は1%以下しか含まれていません。)
 一方、1990年代に入ってX線、ガンマ線の観測が急速に進み、かに星雲のような、電子
を宇宙線のエネルギー領域である一兆電子ボルト以上に加速できる天体がいくつか発見さ
れるようになり、宇宙線の起源天体の謎はいっそう深まることとなっていました。
 そのような中、1995年以降、日本のX線衛星ASCAによって南天のSNR、SN1006か
ら高エネルギーへの電子加速の兆候が観測され大きな注目を集めました。さらに我々、カ
ンガルー実験により、同じSN1006において高エネルギー電子が放射すると予想される一
兆電子ボルトという高エネルギーガンマ線が,まさに予想通り観測されるという成果があ
げられました。この成果に加え,今回の報告にもあるRX J1713.7-3946に対しても、数年
前に同様にX線、ガンマ線の観測が成功し、SNRでの少なくとも電子の加速は実現してい
ることが明らかになってきました。
 今回、我々は新しい10mの反射集光器を用いてRX J1713.7-3946を観測し,詳細なガン
マ線スペクトルを得ることに成功しました。我々が観測したガンマ線がSN1006と同様に
高エネルギー電子から放射された場合、電波、X線、ガンマ線の各スペクトルの関係は十分
予測可能であるのに対し,その予想とは全く異なっていました。この観測事実は、観測さ
れたガンマ線がSNR内の高エネルギー電子による放射ではないことを意味しています。ガ
ンマ線を作るその他の可能性としては、SNRによって加速された高エネルギー陽子がSNR
周辺の物質と衝突してガンマ線を生成する過程だけであると一般的に考えられています。
実際,陽子起源のガンマ線とすると、我々の観測結果をよく説明することが出来ました。
さらに、SNRの物質分布も、観測された高エネルギーガンマ線が陽子に起因するものであ
ると考えるのが最も合理的であることを示しています。
 この発見は、陽子が地球で観測される宇宙線に匹敵する高エネルギーまで宇宙で加速さ
れている確かな証拠を初めてとらえたものであり、さらにSNRが銀河系内宇宙線の起源で
ある可能性を具体的に示した最初の例です。まだSNRだけで銀河内宇宙線のすべてが生み
出されているかどうかはわかりません。しかし、我々の発見が、いままで全くの謎であっ
た宇宙線の起源天体はどこかという難問が、近い将来、確実に解明できることを示したこ
とは間違いありません。
 なお、写真などは以下のWebページで得ることができます(電子ファイル)。
http://icrhp9.icrr.u-tokyo.ac.jp/gallery.html
 また、我々の実験およびその目的は、日経サイエンス(2001年7月号66-73ページ)、科
学(1997年5 月号390-397ページ)の関連記事を参照していただけるとよく理解していただ
けると思います。

カンガルー実験日本側代表者(谷森[京大理]、森[宇宙線研])連絡先(榎本[宇宙線研])